邦秋の、ギャラリー「個と場」

宮崎在住のランチタイムミュージシャン、邦秋(くにあき)の頭の中。アイデア備忘録・雑感・お役立ち情報から創作活動(音楽・歌詞・散文詩等)の展示・解説まで幅広く。関心事:DTM・音楽・ロゴ・デザイン・教育・APPLE・効率化他

音楽談義 #01 「良い歌詞の定義」2/3

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詩と歌詞の違い=歌詞は歌ありき

邦秋(以下、邦): この宿題(「良い歌詞とは何か」)をもらってから、かなり色々考えてね。少なくとも今まで自分が「良い歌詞」とそうでない歌詞を判断してきた軸は、単なる主観や好みだったんだなって気づいたよ。まずは、素晴らしいきっかけをくれてありがとう(笑)

シゲ(以下、シ): 心が穏やかになったね(笑)

邦: そうそう。で、考えを突き詰めた結果、そもそも「詩」と「歌詞」が分かれているのは何でだろう?という疑問に行き着いてね。Wikipediaによると、詩は「言語の表面的な意味(だけ)ではなく美学的・喚起的な性質を用いて表現される文学の一形式。 (中略)多くは韻文で一定の形式とリズムを持つが、例外もある」とあるのよ。それに引き換え、歌詞は歌ありきだな、と。

シ: そうだよね。良い歌詞を紹介するっていうブログ記事の中で、歌詞だけを掲載してもナンセンスじゃない?って最近になって思い始めてた。「歌がないのに歌詞だけを載せてもなぁ…」っていう。

邦: まさしくそれ! で、自分なりに導き出した今回の結論としては、「歌との一体感があるかどうか」という一点が、良い歌詞かどうかの100%の評価軸でいいんじゃないかな、と。

楽曲やメロディに言葉が自然と乗っているかどうか、聴いていて心地よいか、歌っていて気持ちいいか、歌詞だけ浮いていないか。詩ではない「歌詞」というジャンルがある以上、歌詞の良し悪しを測る評価軸はここだけかなって気がしてきたのよ。

シ: 思ったよりシンプルな答を持ってきたね。でも、その中でもメッセージ性がある歌詞の方がより良くない?

邦: メッセージ性があるか、とか、共感できるかどうか、とかは歌詞を作る要素の一つであって、それが「良い歌詞」かどうかの評価軸には入れなくていいんじゃないかって思えてきてさ。例えば、「良い漫才」の評価軸は何かって言ったら、爆笑を取れるかどうかじゃない?

シ: なるほど。爆笑問題の時事ネタ、サンドウィッチマンの日常風景を切り抜いたネタ、ナイツの言い間違いネタ、NON STYLEの小ボケを連発するネタ…それぞれ切り口や手法はバラバラだけど、全て面白いもんね。

邦: その中で「爆笑問題の時事ネタが好き」というのは好みの話、もしくは客観的であってもそれは「作り方」の上手さという部分的な評価ではあるけど、「良い」かどうかを決定づけるものではないかな、と。

シ: そうだとすると、邦くんが思う「良い歌詞」って例えばどんな歌?

邦: これも色々考えたんだけど、SMAPの「SHAKE」や藤井隆さんの「ナンダカンダ」はすごいなって改めて思った。

シ: おぉ、歌詞に意味を求めてきた我々にとって意外なチョイス。

邦: 「SHAKE」なんて、サビの「タータータタータ タータタータター」っていうメロディに対して、「シェイクシェイクブギーな胸騒ぎ」って完璧だなと思ってて。数多ある言葉の選択肢から、よくもここまで「バシッ」とはまる言葉を当てることができたな、と。リズム的にも、曲の雰囲気との一体感的にもね。

ZARD、TK、森高千里…次々思い出す良い歌詞たち

シ: 確かにね。曲との一体感といえば、FIELD OF VIEWの「突然」ってあるじゃない? 坂井和泉さんが作詞だけど、最近あの歌詞の凄さに気づいたよ。

邦: そうなの?

シ: あの歌、前奏も無くいきなり「突然 君からの手紙」から始まるじゃない。あれ、何でかわかる? 突然、だからなんだよ。

邦: わーっ! すごい!!

シ: でしょ。これこそ一体感だよね。さらに、「今すぐ逢いに行くよ」って言った後「カセットのボリューム上げた」という一言で車に乗り込んで走り始めたことを描写したり…坂井さんはすごいよ。

邦: そこは、②表現力の評価だね。素晴らしいなー。さすが、歌詞を読み込む男、シゲだね。

シ: 坂井さんといえば、「負けないで」のサビで「どんなに離れてても」ってあるじゃない?

「離れてても」の「な」で音のピークがあるわけだけど、作曲者の織田哲郎さんとしては、あのピークから始まる言葉をあててほしかったらしい。

邦: 言葉の二文字目でピークになることを想定してなかったんだ。「果てしなく離れても」とかにして、「離れても」の「は」にピークを置いてほしかったって感じかな。作曲者も、自分では歌詞を書かないものの、ぼんやりイメージする言葉の当て方があるんだね。

シ: そういうことだね。

邦: それにしても、この一点の評価軸で見るとさ、今まで好きじゃなかった西野カナの「会いたくて 会いたくて 震える」っていうフレーズも、世間で受け入れられた理由はわかる気がしてきたよ。好きになったかどうかは別にして。

シ: そう! それが今回の趣旨で、主観と評価は別なんだよね。GReeeeNの「キセキ」の「明日、今日よりも好きになれる」っていう歌い出しも、曲の幕開けとしては抜群に良いんだと思うよ。俺も興味はないんだけど(笑)

邦: その点では、小室哲哉さんはやっぱり天才だよね。

「寒い夜だから」「愛しさと切なさと心強さと」「Can you celebrate?」…全部メロディ込みで浸透してるもん。「Can you celebrate?」なんて、英語としてどうなの?と思ってたけど、歌詞としてはこれがベストアンサーなんだよね。

シ: 小室さんは、Can you celebrate?のフレーズのメロディが浮かんだ時に、この言葉しかないって思ったらしいよ。

邦: シゲは何でも知ってるなー。

シ: 森高千里さんの「私がオバサンになっても」とか「気分爽快」も、詩としてはなかなか生み出しづらそうな作品だよね。

邦: それなのに、歌と一緒にその歌詞が登場すると、化学反応が起きて、歌詞も含めて皆に愛される作品になってる。

シ: 歌詞の一体感といえば、曲との相性は勿論、アーティストの雰囲気との一体感という観点もあるよ。

例えば、黒夢の「BEAMS」はオシャレなんだけど、意外と2番の歌詞はあどけなさというか情けなさがあるよね。反応してない?、Worst Communication、抜け出たりいいね、君が泣いた、重い夜 僕のせい、とか。「お、喧嘩しちゃったのか~?」みたいな(笑)

それでもシュッとした曲に聴こえるのは、バンドイメージや歌い方を始め、もう「黒夢という空気」が出来ていて、全てで一体感を生み出せているからなんだろうね。

邦: それも含めて、やっぱり、歌詞は起こされた文字だけを見て味わったり評価されたりするべきものではないことが分かるね。

シ: L’Arc~en~Cielの「winter fall」も、「窓辺に置かれたガラス細工」「透明な雪の結晶」はhydeが歌うからこそ、特別に綺麗な情景に見えてくるし。Mr.Childrenの楽曲でこの言葉が出てきたら、いい意味でもう少しチープな、味のある感じになりそうじゃない?

邦: 演歌歌手がこの歌詞を歌ったらただの小樽の歌に聴こえちゃうもんね(笑)

シ: うわ、ご当地ソングだ(笑)

 

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